手洗い・手指消毒、感染対策の中心ともいえる行為です。
そして、今まで誰もが、ずっと子供の頃から行っている、当たり前の清潔行為です。
しかし、その手洗い方法が間違っていると知ったら、皆さんはどう感じるでしょうか?
今回は、手洗いのプロである看護師の視点から、手洗い・手指消毒について書き綴って行きたいと思います。
あなたの大切な人を守りませんか?
手洗いの種類
・日常手洗い
・衛生的手洗い
・手術手洗い ※今回は触れません。
医療業界では、手洗いをこの3つに分けて考えています。基本的には、衛生的手洗い・手術手洗いに焦点が当てられています。
今回は、手術手洗いは非常に専門性が高いので、説明は省かせてもらい、インフルエンザやコロナ感染症に必要な部分を書き綴っていきたいと思います。
日常手洗いと衛生的手洗い
これは、一般的に行われている手洗いとイメージできます。
石鹸と流水で手全体を洗う方法です。健康な方が、自分の健康や家族の健康を考えるのでしたら、効果は十分だと思います。
しかし、ここでポイントとなるのが、手洗いのタイミングです。
手洗いのタイミングをしっかり理解して実施することが、大切なのです。
帰宅後や食事の前に手を洗っていますか?
しかし、現在コロナウイルス感染症が集団感染を起こしている状態では、一つ上の手洗い方法の「衛生的手洗い」を知っておくことは、家族や自分、そして社会全体を守る意味でも必要かもしれません。
「衛生的手洗い」は、看護師がケアを行う前後にや無菌操作前に行う手洗いのことです。
衛生的手洗いにおいて大切なのは、手洗いの「手順」、「時間」、そして、「タイミング」であり、この「手順」と「時間」が日常手洗いとの大きな違いなのです。
日常手洗いを時間を掛けて行えば、衛生的手洗いレベルまでの効果は期待できますが、実際はそこまで簡単な話ではありません。手洗いって、結構手洗い手順やタイミングへの意識が下がってしまう傾向があり、結局ささっとやって終わらせてしまうようになってしまうので、効果が亡くなってしまうのです。
正しい手洗いは難しい?
看護師は、看護学生の時に、手洗いの講義と実技テストが行われます。それも、実際に洗い残しがないかと特別なクリームでテストされるので、手洗い一つに非常に高度教育を受けています。さらに、看護師として病院で働き始めても、感染対策委員から、適宜手洗いの追加講義や実技テストが行われているのです。
つまり、日本の看護師は「手洗いのスペシャリスト」なのです。
・・・がしかし、その手洗いスペシャリストの看護師でさえ、現場では推奨される手洗い実施率が低いというデータが毎年上がっているのです。
日本赤十字看護学会の研究では、結論として「手洗いの必要性の認識が強いにも関わらず、適切な手洗い行動が見られていなかった」とされた発表があります。
対象看護師の手洗いの実施率や手洗い時間は、非常に個人差があったのです。
なんと、5秒間しか実施していなかったり、実施率2.0%…つまりほとんど実施していない看護師もいたそうです。
手洗いが非常に大切と分かっていても、実施率が低くなってしまうというこの矛盾は、現場の感染対策委員会の悩みの種なんですよね。
この矛盾が起きるのは、知識というよりは、意識の部分が強く影響を与えているからです。
ミラノのマンジャガッリ病院で新生児に関わる看護師に対して、厳密な正しい手順に沿った手洗い方法を行った看護師に特別手当を導入した所、手洗いの質と実施率が上がり、院内感染が30%減少されたとういうデータがあります。(AFP BB News)
手洗いは大切だから、やっています。手順がだんだんめんどくさくなり、石鹸と流水で洗えているから大丈夫でしょう…。
間違った手洗い=感染リスク増大
正しい手洗いって、本当に難しいのでしょうか?
流水下での手洗い と アルコール擦式製剤による手指消毒
<CDCガイドライン>
流水下の手洗い と アルコール擦式製剤によるラビング法が推奨されている
誰もが知っているアルコール製剤を使用した手指消毒です。
ドラックストアでも購入でき、非常に消毒効果が高いです。また、手荒れ防止の成分も含まれているものが多いので、非常に簡便でかつ効果的にしようできます。
ラビング法については、手洗い・手指消毒の項目を参照してください。
アルコール擦式製剤による手指消毒の注意点
それは、アルコールが消毒効果を示す作用に関係します。アルコールは急速に乾燥する時に、細菌やウイルスの水分も蒸発させて、死滅させることにより、殺菌効果を表します。
流水のように洗い流しているわけではないのです。
つまり、目に見える汚れがある場合は、効果を示さないということなのです。
目に見える汚れがある場合は、アルコール製剤は使わずに流水でしっかり洗い流さないといけないのです。
さらに、濡れている手でも、アルコールの殺菌効果はなくなってしまうので、汗をかいていたりしたら、使えません。
目に見えない汚れ:アルコール擦式製剤
手洗い・手指消毒のタイミング
・料理や食事前
・トイレ後
・咳やくしゃみ、鼻をかんだ後
・外から室内に入った後
・手すりやドアノブなど、公共のものを触れた後
・動物等に触れた後
これは、比較的イメージしやすいと思います。
特に、インフルエンザやコロナウイルスが猛威を奮っている中では、「不特定多数の人が共有するもの」に触れた後は、手洗い・手指消毒をすることが推奨されてます。
・患者に触れる前
・清潔・無菌操作の前
・体液に暴露(汚染)された可能性がある場合
・患者に触れた後
・患者周辺の物品に触れた後
看護師はこの「手指衛生の5つのタイミング」を意識して仕事をしています。
これは、当然看護学生はテストに出されますし、現場でも感染対策委員より、適宜指導や啓蒙活動が行われているほど、最重要項目の一つとされています。
看護師の手で、
・細菌・ウイルスを患者に持ち込まない
・そして、持ち出さない
という視点で構成されています。
コロナウイルス感染症の感染拡大を防止する最重要項目も、自分自身が家族や仲間に「コロナウイルスを持ち込まない・持ち出さない」なので、感染対策の根幹はこの考えで成り立っているということなのです。
ここを意識できるかどうかで、手洗いや手指消毒への意識が大きく変わってくると思いませんか?
手洗い・手指消毒の方法
洗い残しやすい場所:
これをイメージして手洗い・手指消毒を行うと、洗浄・殺菌効果が上がりますので、ぜひ手洗い・手指消毒時に思い出してください。
アルコール擦式製剤によるラビング法の手順
アルコール製剤による手指消毒も正しい手順があります。アルコール製剤を付けたのに、消毒効果が得られないなんてもったいないと思いませんか?
ラビング法は、非常に有効な方法で、難しくないので、この機会に身に着けておくと、一生使えるので、安心ですね。
流水下での手洗い方法
手洗い時間は、30秒間が推奨されています。慣れるまで、タイマーや砂時計を使うと分かり易いですね。
お子さんと一緒にやるのでしたら、歌を歌いながらなんていう方法もあります。この2曲はそれぞれ大体30秒間で歌い終わります。
・”ゆっくり”と「もしもしカメよ、カメさんよ」を1回
なぜ30秒間の手洗いが大切なのかというと、丁寧に洗わないと、細菌やウイルスが残ってしまうからなのです。
一回目のハッピーバースデーの間は、ハンドソープもみ洗い
二回目では、しっかり洗い流す
これだと、わかりやすいですね。
手洗い・手指消毒に関する豆知識
・固形石鹸のリスク
・抗菌石鹸の必要性の有無
・タオルの共同使用でのリスク
・手洗い後の行動でのリスク
・手洗いの代わりに手袋着用のリスク
・固形石鹸のリスク
固形石鹸は、使用されるたびに、汚染されてしまうので、病院では固形石鹸は使われなくなりました。
しかし、この部分は少し細かく考えていくと、固形石鹸自体の問題ではなくて、固形石鹸の管理方法に問題があることが分かっているのです。
世界中で色々と研究されていますが、確かに固形石鹸が汚染されるというデータがある一方で、汚染された固形石鹸での手洗いでは、細菌やウイルスは石鹸から手への移動はしないという文献も多くあります。
CDC(米疾病対策センター)も、固形石鹸は液状せっけんと同じ効果があるとしています。
固形石鹸しかなくて、手洗いしないということが大きな間違いなのです。
固形石鹸が細菌やウイルスに汚染されるというのは、「水が付着していることによる細菌増幅」「固形石鹸容器の汚染やその周りの汚染」などです。
取り扱いが液状せっけんよりも、やや煩雑化しやすいため、確かに液状せっけんの方が、感染管理しやすいということなのですね。
液状せっけん自体は、容器に継ぎ足していく方法を取られている方が多いと思います。しかし、継ぎ足しは石鹸溶液を汚染させる場面でもあります。また、濡れているポンプ容器は当然細菌やウイルスが増えます。ある病院では、このポンプ容器の汚染により、院内感染を起こした所もあるのです。
・抗菌石鹸の必要性の有無
石鹸自体も抗菌石鹸の方がいいのではと考える方も多いと思います。
確かに、抗菌石鹸の方が、手洗い後の細菌などの繁殖スピードが遅くなるというデータもありますが、絶対抗菌石鹸が必要というわけではありません。
ヨシダ製薬のまとめた資料によると、30秒間の正しい手洗いでの比較検討で抗菌成分の有無に滅菌率はほどんと差はなく、抗菌成分を含まない石鹸でも、ほとんどの通過菌を除去できていると報告されているからです。
・タオルの共用使用でのリスク
手洗いをして綺麗な状態で手についてる水を拭いているのだから、タオル共用は問題ないと考えていませんか?
ここで、2つの問題があります。
・蒸れたタオルは、細菌繁殖してしまう
手洗いのスペシャリストで、毎年手洗いチェックをされている看護師でされ、正しい手洗いができてない場合が多いことは、様々な研究報告から分かっています。そのため、自分や家族も含めて一般の方が、正しい手洗いを毎回できていると思いますか?
残念ながら、非常に難しいのはないでしょうか。
これは、正しい手洗い方法が専門的すぎる事が問題ではなくて、意識して手洗いをし続けることが難しいからです。
次に、細菌やウイルスはどこにでもいます。落下細菌と言って、細菌は天井から降り注いでおり、空気中を舞っているのです。つまり、濡れている環境であれば、増えていってしまうのです。綺麗な水であろうとなかろうと。
このことから、タオルの共有はおすすめできないのです。病院のトイレや手洗い場でタオルをいまだに使い続けているところはありません。
そのため、タオル使用よりも、ハンドドライヤーやペーパータオルが、推奨されているのです。
自宅でもペーパータオルを取り入れるのは、良いかもしれません。
しかし、タオル使用をするのであれば、家族同士での使用でも感染しあうことを考慮し、一日一回の交換ではなく、もう少し多い頻度でのタオル交換をおすすめします。
・手洗い後の行動でのリスク
手洗い後に、髪の毛を直したりしていませんか?
せっかく綺麗にした後なのに、すぐに手に細菌やウイルスを付けてしまっては、元も子もないと思いませんか?
「髪の毛やお化粧直しをした後に、手洗いをする」か、「髪の毛やお化粧直しの”前後”に手合いをする」のが正しいタイミングと言えます。
そして、落とし穴が、水道の取っ手です。
水道の取っ手は、非常に汚染されています。
化学メーカーの大手の花王では、蛇口の取っ手から大腸菌やカビなどが非常に多くの家庭で検出されていると報告しています。
また、石鹸メーカーのミューズも、衛生的な手洗いポイントで、「蛇口:ハンドル」をノータッチポイントとしてあげており、手をふいたペーパータオルなどを使って直接触らないように注意喚起しています。
看護師は、肘を使って蛇口の開け閉めをするように教育されています。
・手洗いの代わりに手袋着用のリスク
ビニール手袋には、非常に小さい穴が非常に多く空いている。
細菌やウイルスの種類が非常に多く、性質も異なります。
そのため、ビニール製剤に付着しやすかったり、ビニール上だと生存期間が長くなるものもあります。
そして、何よりビニール手袋には、「ピンホール」という目に見えない非常に小さい穴かいくつも空いているのです。そして、使用後は目に見える穴まで出来てしまうことがあるのです。
看護師は、確かに看護処置の時には必ず手袋をします。しかし、これは手洗いを省くためではなくて、「目に見える汚れ」を付けないようにしているだけなのです。
そうすれば、アルコール擦式製剤による手指消毒が使えるので、感染対策を取りつつ、効率よく仕事をするとためなのです。
手袋の着用前後は、必ずアルコール手指消毒を行っているのです。
※もし行っていない看護師を見かけたら・・・、病棟師長へ報告してあげてください。
そして、手袋の付け方と外し方も、正しい方法があります。
この方法を知らないと、せっかく手袋で防いでいた汚れを、手に移してしまうからです。
※今回は、手洗い・手指消毒がテーマなので、ビニール手袋の脱着方法については省かせて頂きます。
そのため、医療従事者ではない方による手洗い頻度を下げるためのビニール手袋着用においては・・・
・手袋で守られている感覚から、汚染手袋でいろいろな所を触ってしまう
・正しい脱着方法を身に着けていない
ビニール手袋は、手洗いや手指衝動代わりになりえないのです。
最後に
今回は、看護師の視点から、手洗い・手指消毒に考えさせて頂きました。
手洗い方法は、いたってシンプルです。誰でも出来ます。
でも、実際に身に着けられる人が少ないのが、この手洗いなんですよね。
今、コロナウイルスが猛威を奮っている状態なので、手洗いの意識は下がりづらい環境なので、ぜひこの機会に、「正しい手洗い」を身につけてはいかがでしょうか。
自分の大切な人を守るために!!!
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